アース製薬

開発秘話:アースレッド

~地道な営業活動が世界への扉を開く~

ゴキブリ増加による製品開発

冷暖房設備の完備や気密性の高いコンクリートの建物が増えるなど、住環境が大きな変化を見せていた1970年代。高度経済成長を経て、人だけではなくゴキブリにとっても生息しやすい空間が急増した。

1973年に『ごきぶりホイホイ』を発売し、爆発的にヒットさせていたこともあり、ゴキブリ用殺虫剤の幅を広げようとしていた。ゴキブリの増加は間違いなくこれから社会問題となり、多様な家庭用殺虫剤が必要になると考えていたからだ。
その頃、他メーカーからは部屋のゴキブリを一度に退治できる、〈くん煙剤〉タイプの殺虫剤がすでに発売されており、広く使われていた。

くん煙剤とは、熱によって殺虫成分を微細な粒子として空間に煙と共に拡散させ、隠れた害虫を部屋中まるごと効果的に駆除できるものだ。
ただ、この当時のくん煙剤は、着火式の“火を使うタイプ”だったために、〈火を使うのが気になる〉〈降下灰が多い〉、〈煙による消防車の誤出動〉という問題を抱えていた。

そこで、この問題を解決できるクリーンでより効果的な製品を作ろうと、『アースレッド』の開発が始まった。

アイデアの勝利

従来の着火式が、煙が多く、降下灰が多いのは、これに含まれる燃焼剤によるものであることはわかっていた。
そこで、火を使わないで熱を発生させる別の方法がないかと検討をはじめ、水と発熱剤の〈化学反応熱〉を利用することに着目した。次に、発熱剤の研究を重ね、水と生石灰(酸化カルシウム)との化学反応熱が高い発熱温度を発揮できることがわかり、発熱方法が決定した。

しかし、さらに実験を進めるうちに、殺虫成分と発熱剤を直接混ぜた方法ではうまく殺虫成分が揮散しないことが判明。再検討を余儀なくされる。
試行錯誤の結果、直接が無理なのであればと、殺虫成分に蒸散助剤を加え、発熱剤を分離し、間接的に熱を伝える仕様に変更してみたところ、見事、今までにない殺虫成分の揮散率の高さが認められた。そして、ここに、水と発熱剤の化学反応熱によって間接的に加熱するシステム『加熱蒸散システム』は誕生した。
このシステムは、熱が伝わるまでの約1分間煙が出ないことから、お客さまが室外へ出るための時間を確保できた。

アースレッドは、企画からわずか1年という短期間で、アイデアを具現化して完成に至った。

抵抗性ゴキブリの増加

アースレッドは、その高い製品特性が認められ、一般家庭だけではなく、飲食店や電車などの乗り物にも幅広く使用されていった。

そんなある時、飲食店を中心に、「最近効きめが悪くなった」との声が寄せられるようになり、その原因を追究したところ、ゴキブリの薬剤に対する抵抗性が高くなっていることがわかった。一般家庭でよく見かけるクロゴキブリはライフサイクルが1年と長く、一般家庭での薬剤使用頻度は高くないため耐性を持ちにくいが、一方、飲食店や公共施設で多いチャバネゴキブリは、ライフサイクルが短い上、薬剤使用頻度が高い飲食店などに多いために耐性を持ちやすく、そのために、このような問題が起きたのだ。

この声に応えるため、1986年に新たな殺虫成分を加え2種混合処方とした『アースレッドOF』を早速販売し、その2年後には、よりパワーアップした『アースレッドW』を発売。薬剤に対する抵抗性を持ったゴキブリへの対策を行った。

使用方法を伝えるということ

お客様は、時に大は小を兼ねるという考え方をする。アースレッドの使い方でもそうだ。
水を入れる量は多い方がいいと勘違いされ、規定量を超えて入れられた結果、蒸散が起きずに不良品扱いされることが発売当初に何件も発生した。
商品をご購入いただいた方に、使用方法を判りやすく伝えることも、メーカーの役目である。

早速改善に取りかかり、パッケージを透明にして、水の量が一目でわかるようにラインを引いた。さらには、計量カップも同梱するなど工夫を施し、お客様へ水の量を伝わりやすくした。

大切なのは、高い有効性を持ちながらも安全に正しく使用されることである。

地道な営業活動

着火式が先行で発売されていたこともあり、『アースレッド』の認知は非常に低かった。
何とかそれを打破するため、営業部員が一丸となって地道なサンプリング活動を続けた。アースレッドは、フラッシングアウト効果という、害虫に薬剤があたって神経興奮が起こることで潜伏場所から外に出てくる機能があり、これによって害虫が確実に薬剤に当たり、見える場所で致死するため、使えば効果は一目瞭然だった。
そのため、ある時は、飲食店の閉店まで待って製品を使ってもらい、翌朝その効果を実感してもらうなどして、認知度を徐々に高めていった。

また一方で、「部屋にゴキブリがたくさん出るから引越しをする」という話をヒントに、引越中のトラックの中で『アースレッド』を使用し、新しい家へゴキブリを持っていかない〈走る殺虫サービス〉というアイデアをアート引越しセンターと実現。それをテレビCMで告知したことで、知名度を上げた。

1986年には、S.C.ジョンソン・アンド・サン社(ジョンソン・ワックス)が日本の『アースレッド』に着目し、当社が特許を持つこの製品を、数百回に及ぶ詳細な実験を繰り返した上でその優位性とクオリティの高さを評価し、当社とライセンス契約を行い『Raid Fumigator』という商品名で全米での販売を開始した。

1994年には、その技術の高さと大衆商品として広く使用されたことが認められ、大塚正富社長(当時)が〈第14回科学技術庁長官賞〉を受賞した。

水を使うアースレッドは、国内シェアの拡大はもちろん、世界へと活躍の場が拡がりつつある。

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