開発秘話:ゴキジェットプロ
~感動をもたらす製品をすべての消費者へ~
エアゾールへのこだわり
「ごきぶりホイホイ」の大ヒットを生んだ殺虫剤メーカーとして、ゴキブリ用エアゾールはどうしても押さえたい市場だった。1980年、その第1号製品として、ごきぶりホイホイの姉妹品「ホイホイエアゾール」を発売。スリムなデザインに、安全面では子供のいたずらを防ぐチャイルドプルーフを採用した。デザイン、機能ともに斬新ではあったが、市場の反応は鈍かった。
感動を与える製品とは
時代を先取りしすぎたという反省から、1985年に「ごきぶりアース」を新発売。形はオーソドックスでも、2WAYノズルという新機能で差別化をはかった。が、これも市場を動かすまでには至らなかった。
1991年、黄色いパッケージの新「ゴキブリアース」で、わずかに売上を伸ばした。とはいえ、当時のゴキブリ用エアゾール市場は、現在の半分以下の23億円。そのなかで、アース製薬のシェアはほんの数パーセントにすぎなかった。
社長からは「シェア挽回」の指示が下されていた。巻き返しの糸口をつかんだのは、1995年に発売された「ゴキジェット」だった。噴射力の高いエアゾールとして、市場に送り込んだ製品である。
この製品が実現した伏線に、1990年の高圧ガス取締法の改正がある。そこに目をつけたのが、研究部長だった。「殺虫効果が目に見えるエアゾールをつくろう」それが社長がいつも言っている「感動を与える製品」である。かくして、開発担当者は「強力噴射でゴキブリをやっつけ、気分がスッキリする」エアゾール、つまり「使用者がダイレクトに反応を感じ取ることができる」製品に着手したのだった。
噴射力で巻き返し
「ゴキジェット」では、噴射力をより高めると同時に、店頭でインパクトがあるようにフォルムも一新した。研究スタッフの思いが天に通じたかのように、イメージどおりのアメリカ製キャップを見つけることができた。その形状デザインを煮詰めていくと、拳銃のような攻撃的フォルムになった。それが功を奏して、初めて20%台のシェアに食い込む画期的な製品となったのだった。
ところが、噴射力の強さが思わぬトラブルを生んだ。キャップの耐久力に問題が発生したのだ。製品が動き出したところで足踏みはできない。品質管理、資材、研究の担当3人がアメリカへ飛んだ。本来、キャップは汎用品でアース製薬1社のためだけに修正することは不可能である。
しかし、3人の熱意が相手のトップを動かし、ゴキジェット用に強化してカスタマイズしたキャップを生産するという約束をとりつけたのだ。既に生産を終えた現行品は手作業で改良した。オフシーズンには、数千本の噴射試験をして翌年に備えた。
社長からの2つの命令
「ゴキジェット」の手ごたえは確かなものだった。早急なシェア逆転をにらみ、効力をさらに上げるべく、社長から開発担当者に2つの命令が出された。ひとつは機能面での改良、そしてもうひとつは製剤面での改良である。
まず、機能面では、より噴射力が高く、オリジナリティのある噴口の開発に取り組んだ。カラス口噴口と呼ばれる、先のとがった噴口を採用し、穴は一点に集中させる形状をとった。これによって、翌1996年、「集中ジェット噴射」という機能をうたった「ゴキジェット」が製品化された。
もう一方の製剤面の改良については、1995年の発売当時からすでに検討に入っていた、より速効性の高い殺虫成分イミプロトリンを配合することが決まっていた。ただし、医薬部外品として申請・承認を得るために、製品化はさらに1年後を待たなければならなかった。
いい製品は一刻も早く届けたい
イミプロトリンの配合処方認可が下り、機能と製剤、両面での効力アップを実現した製品は、1997年、ネーミングも新たに「ゴキジェットプロ」として発売された。秒速ノックダウンの速攻効果と、集中ジェット噴射効果で、ゴキブリを逃がさない史上最強のエアゾールである。
通常なら春夏の新製品の発表は1月に行われるが、同製品は企画部長の発案により、認可が下りてすぐ、夏期商戦真最中の8月に行われた。これには開発担当者も驚いた。異例の8月発売に踏み切ったのは、「いい製品は一刻も早くお客様に届けたい」という真摯な思いがあったからだ。同時に、製品に対する自信もあった。「ゴキジェットプロ」は、発売翌年の1998年に、シェアはトップと横並びに、そして翌1999年には、念願の逆転を果たした。
地位を確立してから数年経った2007年、見かけたゴキブリを駆除するだけではなく、あらかじめ噴射しておくとその残効性により見かけなくても勝手に駆除できるという製品が発売された。研究は早くに取り掛かっていたが、まずはゴキジェットプロの地位確立が先だったため、少し遅れての発売となったのだ。薬剤を敏感に感じるゴキブリに気付かれずに薬剤の上を歩かせることがこの製品の肝である。そのため、薬剤や香料の配分に気を配り、透明なパウダーを入れてゴキブリの身体に付着させ駆除効果を高めた。そして完成したのが「医薬品 ゴキジェットプロ 秒殺+まちぶせ」である。
付加価値のついたゴキジェットプロを加えたことで、ゴキブリ用エアゾール市場の中のシェアは7~8割を占めるまでになった。トップの座を守るため、今もなおあくなき研究が続けられている。